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尾崎国子ヒンデローペンエッセイNo7

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賑わう市民の台所

今年の日本は暖冬で過ごしやすいのですが、地球温暖の危機と、よろこんでばかりいられませんが、お元気でお過ごしですか。

又、今年は特に世界的に暖冬です。私のいた頃のオランダはとても寒く、口元をスカーフで覆わなくては冷たい冷気に喉を痛めてしまうほどでした。分厚い長めのコートに皮のロング手袋、深めの帽子、ブーツで、完全武装してお出かけです。ピリピリとほほを容赦なく射す風は痛く、まだまだ春は遠いオランダです。半ば凍りついた道路をブレーキなしの自転車で人々は颯爽と市場に出かけます。オランダの自転車は道が平らなのでブレーキが付いていません。起用にペダルを逆回転して止めます。

教会を中心にマルクト広場があり、毎週曜日を決めて2、3回地区ごとに市が立ちます。普段のときは広場になっていますが市の立つ日はテント張りの青空市場になり、朝8時からお昼まで、開かれます。
市場はヨーロッパでは長い歴史を持ち、市民の大切な台所です。市場もヨーロッパ各国によってもその民族性が出ています。ドイツなどはとても几帳面に商品が並んで、幾何学的に整然と並べられたりんごの山から大きいりんごをよって買うことはとても困難なぐらいにきれいに積み上げていますが、オランダはその山も平たく、それでもきれいに山積みにして売っていて、大きさを選ぶことができます。ポルトガルではさすがにラテンの国、箱に無造作に不ぞろいなりんごでも大小一緒に入れて売っています。

ありとあらゆる生活必需品が並ぶ市場で、人々は一週間分の買い物をします。強風であろうと、雨、雪,など、変わりやすい冬のオランダの天候事情ですが、決まって同じところに同じ店が出ます。食料品はもちろん、レコード、布地、カーペット、寝具、洋服、大工道具、靴、おもちゃ、カード、洋裁部品店,うなぎや、魚や、肉屋、チーズ、花屋、など等飽きることはありません。

最大の魅力は物価の安さです。
オランダの花市は有名ですが、生花の安さにはただただ感激をしてしまいます。バラ、チューリップ、50本300円ぐらい、今ではユーローですので、もう少し高くなっていると思いますが、、、。部屋中に花一杯飾って、贅沢な気分を堪能します。
食料品は特に安く、1,000円もあれば鯖が3キロと鯵が1キロは買うことができます。こんなに安いのは、消費税18%なのに、食料品には税金がほとんどかからないからです。
魚では鯵や鯖、にしん、たら、など寒流の魚を中心にとても種類が多く助かります。鯵の息のいいのをたたきにしたり、鯖寿司にしたり、まるぼしの干物を作ったりします。お客様がいらしたときは、それらはとても喜ばれ我が家ではいつの作っていました。

うなぎ屋さんは市場の隅の半畳ほどの間口で、太った体格の良いい髭のおじさんがゴムエプロンに身を包み、大きな包丁でうなぎの頭をとり、皮もみな取って丸裸のうなぎをピンクの棒のようにして売っていました。
蒲焼の誘惑にうなぎを皮のついたまま買い求めて焼いてみましたが、見事にちじんでしまい、惨めな蒲焼でした。肝吸いにしたいので、「肝をください」といえば、肝を両手に一杯くれました。気持悪くて、肝吸いどころではありませんでした。

又、洋裁の細かな部品を売るお店では、たくさんの種類のレースやボタンなどが、色とりどりの種類があり、作りたい洋服地を持って、ボタンやファソナー裏地などを求めて、賑わっています。衣類は食料品と比べて高いので、ご婦人たちは手作りをします。素敵なデザインの生地のおおさ、ボタンの豊富さにはついつい買い求めてしまいました。

それから、魅力的なのは鳥の丸焼き機。大きな車の荷台を半分あけると中に巨大な鳥の丸焼きの機械が設置され、自動的に回転しながら鳥の丸焼きができる仕組みになっています。丸々太った鳥が機械をぐるりとゆっくりと一回転すると、琥珀色をした丸焼きのできあがり。香ばしい香りが市場に漂い、その誘惑につい乗ってしまい、今日の夕飯は丸焼き鳥。
又、熱々のポテトチップのお店も買い物帰りのお客を魅了します。立食のお店の前で、マヨネーズをたっぷりとかけた、あげたてのポテトを人々はフーフーいいながら口にほおばります。(日本人の私はマヨネーズの多さに少々胸やけがしましが)酢漬けのにしんの一気飲み!これも少し抵抗がありますが、たまねぎのみじん切りを混ぜてたたきにすると、とても美味しいです。

市場には「ヤーャー」と陽気なオランダの挨拶が飛び交い、掃く白い息が周りの活気とともに市場の賑わいとなります。自転車の両側の大きな買い物籠ははちきれんばかり。大きな花束が無造作に荷台にくくり付けられ、人々は我が家へと帰ります。私も毎週、市の立つ日を楽しみに、特にあの熱々のポテトフライ、丸焼きのコケッコッコーの誘惑を期待しながら、寒風もろともせず、市場通になりました。